幽霊と恋愛希望の女の子


幽霊、悪魔、エクソシストに祓魔師。


非現実的でありながら現実として存在するもの。


そんな世の中、少しくらい変わった能力の女の子がいても可笑しくないでしょ?




†Case1:幽霊と恋愛希望の女の子†




面倒なことになりました。


私の目の前には幼なじみのブン太。


そして、口の裂けた女の人。


女の人はブン太の首をギリッと力いっぱい絞める。


本来面倒なことは極力避けたいが、これは幼なじみの命に関わる。


はあ…、とため息をついてブン太に近づく。


『こんばんは、幽霊さん?』


にこりと幽霊であろう女の人に微笑みかけると、肩の力を抜いたブン太が視界の端に映った。


ひっ、と詰まった声を出した女の人は私が抱き着くと本来の姿になって煙りみたいに消える。


抱き着くと同時に頭に流れてきたのはこの学校で恋人を待っていた女の人と、女の人の待ち人との記憶。


『この学校の先生だったんだ。……恋人に会いたくて、ずっとここで待ってたんだね』


歳は20歳後半くらいだろうか。


黒髪の綺麗な女の人だった。


「名前…」


『大丈夫?ブン太』


絞められた首をさすりながら立ち上がるブン太に手を貸す。


「サンキュ」


『どういたしまして』


私の手を取ったブン太はにっ、と満面の笑みを浮かべた。


女の人に掴まれていたブン太の首筋にちゅ、とキスをして除霊終了。


うっすらとついていた手形は跡形もなく消えた。


「さすが名前。いつ見ても羨ましい体質だぜ」


『そうかな?私としてはブン太の体質のほうが羨ましいけど』


††††††††††


成績平凡、容姿中の中、運動神経普通のどれをとっても冴えない私。


だけど、何故か霊を祓う力があり、それも異様に強いらしく、ほとんどの幽霊は私が触れただけで除霊出来ちゃう。


私としてはとある理由により、ブン太みたいに幽霊を寄せ付ける体質のほうが羨ましいんだけど、彼は嫌らしい。


まあ、とにかく大低の霊は祓えちゃうという体質なのだ。


「な、なあ。それより、いつも思ってたんだけど幽霊が触れた部分にキスする理由って……?」


赤い顔で尋ねてくるブン太。


『ああ、それも除霊の一部。幽霊が触れたところにはその人の心残りの念が篭ってるんだよね。だからそれも魂と一緒に天に送るの』


にこりと笑って説明し、ブン太の隣を並んで歩く。


幼なじみは赤い髪をひょこひょこと揺らして、私と歩幅を合わせる。


……ああ、そういえば、ブン太との出会いの説明がまだだったね。


ブン太と初めて会ったのは丁度今から10年前、私がブン太の家の近くに引っ越してきてからだ。


近くの公園で遊んだ帰り、幽霊に追いかけられてるブン太を助けたら懐かれた。


それからは、私のとある目的のために幽霊を寄せ付けるブン太といる私と、幽霊を払うために私といるブン太は幼なじみという地位に収まった。


私のとある目的の内容だが、これはまあ話せないわけでもないので話しておこう。


結論から言わせてもらうと、私は幽霊と恋がしたいのだ。


幽霊×人間イコール悲恋って方程式が私の頭の中にあるんです!


愛しあっても触れられない身体、伝わらない熱……、素晴らしいと思わない!?


コホン、ごめんなさい、つい熱弁したわ。


とにかく、私はこの目的を果たすためにも幽霊ホイホイなブン太が必要ってわけ。


私はイケメン幽霊が見つかってハッピー、ブン太は幽霊が寄って来なくてハッピー。


…利害一致しましたけど、何か文句でもあります?


「名前?置いていくぞ」


不意にブン太に声をかけられ、放課後の学校の廊下を歩く。


『待ってよ!』


パタパタと上靴を鳴らしてブン太の隣に再び並んだ。




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